第二十一篇 終焉の光 前編
著者:shauna
フロート公国の沿岸約150qの位置。
その島は現在そこにあった。
数百年も前に地図上から消され、現在はある組織によって運営される、歴史からも消された一つの島・・・
その島の名はシード島。
聖蒼貴族の本部で有り、見つからない為の偽装に満ちた鉄壁の要塞である。
そして、その丁度中央にある湖の中央。
そこにその建物はあった。
シード宮殿。
聖蒼貴族の総本山にして、裏社会を支配する強大な力の根源。
そして・・・この宮殿の内部にある執務室。
貴族達全員に一室ずつ与えられるこの部屋のとある一室に・・・
その2人は居た。
執務机で書類の整理をする男に詰め寄るのはルシファードに頼んでここまで連れてきてもらったシンクラヴィアだった。
「パパ・・・このままでいいわけ? シルちゃんの策略は大体分かる。でも、きっと“空の雪”は魔道学会の権力を傘にきっと逃げる。いいえ、それだけじゃない。今回のコレは見方を変えれば完全なるテロ。裁判になれば管轄は魔道学会。まずいんじゃ・・・」
そんな言葉を聞きながら書類を整理し終わり、トントンと軽く叩いてファイルに閉じたのは壮年の男だった。黒の髪に髭面のオジサマという言葉の似合う50代ぐらいの男。黒のモーニングコートの上から白いマントを羽織ったその姿はまるで王族のようにも見える。
「ふむ。で、シンク。君だったらこの状況、どう切り返す?」
机に肘を突く形で手を組みながら男は言う。
「まずは、グロリアーナ家に伝達。軍を率いて、相手が裁判を起こす前に“空の雪”及びその関係者を殲滅する。」
「でも、ここからじゃ、いかに高速船と言えど、フロートシティ到着には一日以上到着にはかかるよ?それに内陸に進むわけだから、見つかると思うけど・・・。」
「シルちゃんの船“スキーズブラルニル”を使う。あれなら、フロートシティまで一時間で着くし、多分誰にもバレない。」
「なるほど・・・でも、“空の雪”全員を殺したら、我々の存在が露呈するかも知れないよ?」
「ハルランディア家に頼んで情報を整理してもらう。私達以外のテロリストってことにして、襲撃したテロリストは追撃中に抵抗したため射殺されたことにすればいい。」
その言葉を聞いて、男はにこやかに言う。
「なるほど・・・いや、流石、次期聖蒼貴族の元締候補。優秀だね。父親としてとてもうれしいよ。」
「じゃあ、早速・・・」
「だが・・・悪いが私はシルフィリアの肩を持つよ。」
その言葉の意味が分からず、シンクラヴィアは首を傾げる。
「どういうこと?」
「まあ、見てると良い。あの子がどれだけ悪魔か・・・とってもいい勉強になるよ。」
その言葉にまたもシンクラヴィアは首をかしげた。
「ルシファード。いるかい?」
男が少し大きな声で扉に向けて叫ぶとすぐにドアを勢いよく開けてルシファードが姿を現す。
「呼んだか?オジキ。」
「オジキは酷いね・・・ヤクザじゃないんだから・・・」
「似たようなモノだろ。で?何の用だ?」
「現在、集められる“円卓の騎士団(レオン・ド・クラウン)”となると・・・誰が居る?」
「そうだな・・・今スグとなると・・・宮殿内に今居るのはオジキと俺と・・・後はモニカだけだな。サージルはフェナルト郊外で住民の避難をしてるし、アリエスとシルフィリアはフェナルトだ。・・・リーファは、呼べば来るだろ・・・。ってことで、来られないのはライブ間近のユーフェミアと顧客の相手で忙しいデイヴィットだけだ。」
「そうか・・・じゃあ、スキーズブラルニルの用意を。みんなで行こう。」
「? フェナルトにか? 」
「そう。シンク。君もおいで。」
「え?」
「いい勉強になるよ。本来なら、聖蒼貴族を統べてもおかしくない人物のやることがね。」
その言葉にシンクラヴィアは黙って頷くしかなかった。
※ ※ ※
それは、もうこれ以上ないってぐらい爽快だった。
あの後、シルフィリアはこう言った。
「クロノはアリエス様が・・・リオンは引き続き、ロビン様が担当して下さい。シュピアは私自身が押さえます。ファルカス様及び、サーラ様は外の魔族の掃討を・・・。」
その司令に従い出た外は、先程見た以上のデーモンで埋め尽くされていた。
なのに・・・
何と言ったらいいのだろう・・・絶対に、必然的に、なんとなく?・・・負ける気がしなかったのだ。
これがシルフィリアの見ている世界なのだろうか・・・。
でも、『黒魔波動撃(ダーク・ブラスター)』打ち放題の魅力はまさに快感の一言に尽きた。
そして、それはサーラも同じことだった。
メルディンを使っての普段からは考えられない魔法戦闘の原則“省エネ”を完全無視した戦闘。
すなわち、白精霊魔術だろうが、神界術だろうが使い放題の現実。
ヤバい・・・ハマりそうだ。
まあ、問題があるとすれば、唯一つ。空の敵をどうやって殲滅するかぐらいだが、それもシルフィリアならきっと考慮してくれているだろうと一切気にせずに戦闘を続ける。
空は未だ、夕焼けとそれに反射する金色の雪に包まれていた。
大聖堂の中では再び、ロビン対リオン&アリエス対クロノの対決がスタートしていた。
「ロビンさんって言いましたっけ?」
緊張した面持ちのロビンにアリエスが問いかける。
「えっと・・・俺、アリエス・フィンハオランって言います。」
「知ってます・・・世界最強の剣士の一角・・・剣聖でしょう。」
「まあ、その・・・そんな風に言われることもありますが・・・」
「魔法剣士の一人として、勉強させてもらってもいいですか・・・」
「アハハ・・・それほど役には立たないと思いますよ?」
「おしゃべりは終わった?」
少し、和気藹々と話していた所にリオンが水を差す。
「剣聖と魔道学会Dランク魔道士・・・中々の凸凹コンビじゃないか・・・」
武器を構え、リオンが前衛、後衛にはクロノが回り、陣を作る。
「でも・・・即席コンビが、私達に勝てるかしら・・・」
「悪いが、俺達は魔道学会に入った時から5年以上コンビを組んでいるのでね・・・。知っているかい? チームワークというモノを・・・1+1が10にも20にもなる・・・。そんなことも分からないようでは、到底我々には・・・」
「あぁ・・・うるさい・・・。」
クロノの解説を遮るように、アリエスがナルシルを構える。
「来いよ・・・遊んでやるから・・・。」
「言ったな・・・小僧が・・・」
クロノが一歩前に躍り出て、それに応えるようにアリエスも一歩前に出る。
「ロビンさん。リオンの方をお願いします。」
「了解です。」
そう言った直後、アリエスとクロノの視線が合う。
お互いを間合いに入れての一歩も引かないにらみ合い・・・。
先に集中力をなくした方が負ける状態に2人は全く動かずにかつ、隙無く剣を構える。
ロビンも感動しながらそれに見惚れていると・・・
「どこに目を付けてるんだい?」
背後から飛んできた氷の矢に危うく心臓を貫かれそうになり、慌てて身を捩る。
「クッ!!」
「あんたの相手は・・・この私だよ。」
「上等!!」
ロビンはそう言うと、自身のエアブレードの柄を半回転させる。すると、静かに柄の頭の部分が外れ・・・
美しい青の宝石が姿を現した。
「ふ〜ん・・・魔道仕込刀とは・・・珍しい武器を持ってるね・・・。」
リオンの言葉通り、それはかなり珍しい品物だった。仕込杖が杖の中に剣を仕込んだものならこれはその逆。刀の中に魔法杖としての回路を組み込んだものである。現在ではこれを作れる程の腕を持つ魔法技工師(リオレスト)が数人しかいない為、必然的にかなりの高額で取引されている品物だ。
「買う為に、半年間食費を切り詰めました。」
ロビンがそう笑って言う。
「・・・いいこと教えてあげるよ・・・。」
そう言って微笑むリオンの周りに冷気が立ち込め始める・・・。これは・・・
「私のスートは闇。そしてその中でも特に・・・氷系統の使い方にはかなり自信がある・・・。良いかい? よく聞きな・・・下級魔族を呼び出せるってことは・・・己はそれ以上の力を持っているってことなんだ・・・。」
「だったら、その力・・・何故正しい事に使おうと思わなかったんですか・・・。魔道士とは人を幸せにし、人を守るための存在。我々魔道学会の意志とはそういう所にあるんじゃないんですか?」
「もちろん、すべての人には幸せになってもらうわよ。私達が“空の雪”が統治する世界でね・・・。」
「生活補助魔法も、移動魔法もない・・・そんな世界のどこに人の平和があるというんです!!!」
「平和よ・・・人は力を持つから争う。そんな力ならむしろ持たない方がいいの。魔法が無くっても人は生きていける。マッチを磨れば火は出るし、団扇で仰げば、風だって送れる。川から水を引けば、水だって使える。魔法なんていらないじゃない。むしろ、魔法なんてものがあるから・・・」
そこまで言ってリオンは口を閉ざす。そこから、どうやら、彼女は彼女なりに何かしらの事情があって、空の雪に身を置いていることがロビンにも理解できた・・・。でも・・・それでも・・・
「だからって、魔法全てが悪いってわけじゃない!!!むしろ、今は、人々が魔法をいい方向に使おうと切磋琢磨している最中です!!!人は学び、そして、磨かれる。そんな時の中で、人々から魔法を奪うということは、未来を奪ってしまうということです!!時間を今日という日で固定してしまうということだと思うんです。」
「平和な世界なら、例えそれでもいいじゃない。」
「良くありません。僕は・・・・明日が欲しいです。例え、今日より悪くなるかもしれないとしても・・・変わらない日常は嫌です。」
「・・・どうやら・・・私達、仲良くなれそうにはないわね。」
「・・・同感です。」
ロビンが自然と構えを作る。
多少の隙こそあるものの、基本に忠実な綺麗な構えだった。
だが・・・
「隙だらけだよ。」
それはまさに、驚きの一言しか出なかった。
なにしろ、本当に一瞬・・・気が付かない間に自分から5m以上離れていたであろう位置に居たはずのリオンは・・・
一瞬にして距離を詰め、自身の真横に立って、腕を掴んでいたのだから・・・
「捕まえた。」
リオンが耳元でそう囁くと同時に、小さな声で呪文を紡ぐ。
『氷の彫刻(フリージング・アミューズメント)』
その言葉が発せられた瞬間だった。
「うぐっ!!!?」
ロビンの顔が苦痛に歪む。
見れば自身の・・・彼女に掴まれた腕の一部が氷に変化していた。
「あなたにとっておきの魔法をプレゼントしてやったわよ。」
その言葉を聞くと同時に、ロビンは膝を折り、ガクッと両膝を地面につけた。
「その氷は体を徐々に浸食していく。どんなに泣き叫ぼうがその侵食は止まらない。心臓が止まるその時まで・・・細胞が急激に壊死していく凄まじい苦痛にさらされるんだ。ざまあみろ!!!アハハ!!!」
そんなリオンの言葉を片耳に聞いたシルフィリアはスッとロビンに手を翳し、静かに『女神の息吹(ブレス・オブ・ゴッデス)』と唱える。しかし・・・
シルフィリアは目を見開いた。
ロビンの傷が和らぐどころか、侵食はますます進んだのだ。
「無駄だシルフィリア。この魔法は私のオリジナルにして、絶対の魔法。いかなる魔術の治癒よりもその侵食は早い!!!つまり、あんたは黙って、その男が氷の彫像になるのを待つしかないのさ!!!」
ビキキキと氷がさらに広がり、ロビンが大声で悲鳴を上げた。
「さて、どうする白孔雀。このガキが完全な氷になるまで5分強。それまでに氷を消すことが出来れば、こいつは助かる。でも、その為の方法は、私を殺すか、それとも気絶させるしかないわよ。でも、見ての通り、私の攻撃は一撃必殺。触れたらその場で終了。果たしてあなたは勝てるのかしら?」
その言葉にシルフィリアが僅かに舌打ちした。
「では試してみますか?」
シルフィリアはそう呟き、とある呪文の詠唱を開始する。
それは自身で禁呪と定めた魔法だった。
とにかく、この魔法は簡単なのに威力だけは凄まじい。だから、極力使いたくないし、できれば使わないままでいたかった。でも・・・
ロビンを失うぐらいならさっさと使って彼女を殺した方がマシだというのもまた事実。
『我話すなり、よって・・・(オルタリティオ・・・)』
そう呪文を唱えようとした時のことだった。
「シルフィリアさん!!!」
苦痛で床に伏せっていたロビンが大声で自分の名前を呼ぶ。
「彼女は・・・僕が倒します。だからこの痛み・・・消して下さい。」
「彼女自身が治せないと言いましたが?」
「直さなくていいんです!!!痛みを消すだけで!!!」
その言葉にシルフィリアはしばし考えた。どうする? このまま自分が殺してしまうのは簡単。でも、ここで簡単に殺してしまったら、彼自身は”空の雪”との決別を一生できなくなってしまう気がする。自らケジメをつけることが出来なくなってしまう。
シルフィリアは静かにロビンに『病傷封(リフレッシュ)・・・』を掛けた。
「4分以内に倒して下さい。もし倒せない場合はすぐに私が殺します。よろしいですね。」
「上等です!!!でも、ひとつだけ・・・4分の間は絶対に手出しは無用に願います!!」
「承知しました。」
晴れやかにロビンはそう言うと、再び剣を構える。
「見せてあげますよ。なんでこんな中途半端な力しか持たない僕が魔道学会に入ることが出来たのかを・・・」
そう言い終わると同時にリオンが静かに手を構えた。
その瞬間、ロビンは肌に冷気を感じる。そして、それと同時に空間が凝結していった。いや、もっと詳細に言えば、空気中にある水蒸気がリオンのまわりで氷となって固まり、数十本の矢を生成したのだ。
「全40本の矢による同時射撃。あなたに避けられるかしら。」
「・・・やってみろ。」
「えぇ!!!言われなくてもやってあげるわ!!!死になさい!!ロビン!!!」
その言葉と同時にリオンの周りに停滞していた氷の矢が一斉にロビンに向けて発射される。
矢は全てロビンの元に真っ直ぐに届き、その場に巨大な土埃を発生させた。
「はい。おしまい。お疲れ様・・・」
リオンはそう言って狂ったようにアハハと笑う。
「なんだ・・・良かったのは威勢だけか・・・で、白孔雀。次はあんたが相手してくれるの?」
その言葉にシルフィリアははフッと笑う。
「いいえ・・・だって、指定された時間まではまだ3分と23秒もありますから・・・。」
「何を言って・・・!!?」
言葉を失った。なぜなら、土煙の中・・・そこには・・・
まったく無傷のロビンが佇んでいたのだから・・・
ロビンは静かに剣を構え、柄の魔法石から数本の魔法矢をリオンに向けて叩きこむ。リオンもかろうじてこれを氷盾で止めたが、しかし、先程の違和感はどうしてもついて纏った。
そんな馬鹿な・・・確かに全ての弾道はロビンの全身を捉えていた。
あれを避けられるはずが・・・
少し慌てるリオンをシルフィリアはクスクスと笑って見ている。
そう・・・両目共に聖蒼ノ鏡を発動しているシルフィリアには今、何が起こったのかがまるで手品の種明かしを聞いた後の如くしっかりとわかっていたのだ。
くっ・・・
「シルフィリア!!!教えろ!!一体どうやって避けた!!!」
その態度が気に食わないリオンはすかさず、シルフィリアに牙を剥く。だが、それに対してもシルフィリアは余裕を崩さず、
「残念ながら、時間の無い中で味方が不利になる発言をするつもりはありません。私は意地悪ですからね・・・しかし・・・一つ助言をするとするなれば・・・もし、彼が私の予想通りのスキルを持っているとするなら、残念。あなたの攻撃はもうロビン様に当たることはないでしょうね・・・。」
「舐めるな!!!」
完全に頭に血が昇ったリオンは怒りの矛先をロビンへと向ける。
「お前も調子に乗るな!!!」
状況は圧倒的にこちらが有利。氷の防御がある限り、自身が負けることなどあり得ない。後はロビンが死ぬまで何度でも攻撃を仕掛ければいいだけの話。それでなくともタイムリミットまで残り3分弱。
敵(ロビン)に自分を殺す術は無い。しかし、自分は後3分耐えれば勝ち。
この条件下で負けることなどあろうはずが無い。
そんなことを考えている間にもロビンはすぐに剣を構え・・・
『焼焔飛翔(ゴッドバード)!!』
術を唱えると同時に杖の先から鷹ぐらいの大きさの炎の鳥が真っ直ぐに猛スピードでリオンに向かって突撃した。しかし、リオンは慌てず、両手を目の前に突き出し・・・
『守護氷柱(アイスガード)!!』
そう唱え、目の前に巨大な氷の柱を出現させ、火の鳥を消し去った。
「フフン・・・」
僅かに笑顔を見せるリオン。だが、ロビンはその間にリオンの後ろに回り込み、『射撃(ドロゥ)!!!』
と唱える。指先から放出する魔力の弾丸はリオン目掛けて空気を切り裂きながら飛び・・・
リオンの体に触れると同時に氷結して堕ちた。
「フッ・・・痛くも痒くもないね・・・。」
残り2分。
「今度はこっちの番だ!!」
そう言ってリオンが地面に手をかざすと、あっという間にそこから氷がバキバキと広がり、ロビンの足を氷結させ、地面に繋ぎとめる。
「これでお前は身動きが取れない!!!今度こそ最後だ!!!」
再び自身の周りに氷の矢を纏ったリオンが喜々としながらその矢を一斉に発射した。
その時、ロビンは意識を集中させる。
そして、目に映ったのは全ての氷の弾にあたる自分の姿だった。
だが、それに反して、体は全然痛まない。
そう・・・これこそがロビンの必殺能力。
予知能力。世間一般ではそう呼ばれている能力だ。
しかし、世間一般と違うのは、彼はごく近未来しか見通すことができないということ。しかし、これは戦闘においてありとあらゆる状況をひっくり返すことになる。
なぜなら・・・この能力を使って見えるのは5秒後の未来。ということは、彼にはこんなことが出来てしまうのだ。
弾に当たってから避ける。
幻想の中で見た自分の未来と照らし合わせながらロビンは先程のヴィジョンを思い出し静かに体を捩る。
まず左肩、続いて右膝、次に心臓、次に肺、次は頭で、次は踝。
そうやって順序よく避けていけば、当たることなど無い。
全ての弾丸を避けきると、未だ種の分からぬリオンはまたも悔しそうな顔をする。
そして・・・ロビンが攻勢に出た。
剣を持っての一刀両断攻撃。
そう・・・未来予知ができるということは・・・命中させてから攻撃することもできるのだ。
案の定、攻撃はロビンの予知の通り、リオンの右肩を直撃した。そして、案の定、彼女の皮膚に張った氷の壁に阻まれた。
「ん〜?何のマネ?もしかしてこんなヒョロイ攻撃で私のこと倒せると思ったの?」
「ええ・・・この一撃で・・・僕はあなたを倒します。」
「ふざけるな!!!!」
しかし、この時、すでにロビンは見ていた。自身の勝利する姿を・・・
『雷の槍(ランシア・デルツォーノ)』
ロビンがそう静かに唱える。それと同時に剣の柄についた魔法石がパァッと輝いたかと思うと・・・
バチッという音と共に青白い閃光が辺りに飛散した。
それは電撃だった。
魔法石から発せられた電撃は剣の内部を通り、刀身へと伝達し、そして・・・
リオンの肩の氷を媒体にして・・・
「ああああああああああ!!!??!!!!?」
リオンの体内へと侵入する。
全身をバチバチとまだ閃光が迸る中で、リオンはバタッとその場に倒れた。
「やっぱり・・・氷には電気が相性抜群みたいですね・・・」
リオンが気絶した為、ロビンの腕の氷がパンッと砕ける。
「ふぅ〜・・・何とか勝てましたね・・・。」
そう言ってロビンは静かに安堵の溜息を洩らした・・・。途端に左腕に柔らかく温かな光を感じる。見てみると既に凍傷になっていた傷は癒えていた。
シルフィリアの方を見てみると笑顔でこちらを見つめている。おそらく治癒の魔法をかけてくれたのだろう。
「まったく・・・随分と面白い能力をお持ちですね。」
シルフィリアの言葉にロビンは「ええ・・・まあ・・・」と照れて応える。
「しかし、その能力。なぜ、今まで使わなかったのですか?それを使えば先程の時点でリオンを倒せたのでは?」
その問いかけに対し、ロビンは苦笑いする。
「この予知能力・・・ものすごく燃費が悪いんです。だから・・・その・・・普段の状態じゃあ、1〜2回しか使えないんです。でも、シルフィリアさんからの魔力供給があったので・・・その・・・使ってみよっかなぁ〜って・・・」
その言葉をしばらくキョトンして聞いていたシルフィリアであるが、やがてフッと笑い。
「大した人ですよ・・・あなたも・・・」
そう言って笑顔を見せた。
さて・・・
やっとの思いでリオンを倒し、ロビンがアリエスの方を向いてみると、2人は未だに激しいにらみ合いの最中にあった。
勝負が決まるのは一瞬。それだけに、まるで周りの空気が脈打つような感覚に襲われる。
その状況の中・・・クロノは必死に考えを巡らせていた。
そもそも、リオンとタッグを組めなかったことが痛かった。本来なら彼女と組んで2対2によるコンビネーション攻撃で2人を殺すつもりでいたのだから。
だが、アリエスの発する異常なまでの殺気と隙のない・・・動いたらその時点で斬り殺されるような間合いがそれを不可能にしていた。
だから、自分が2人をまとめて殺すにはまずこの剣聖を葬る必要があったのだ。
アリエスの先程の戦い方からすると、どうやら逆一文字という剣術は、現に今アリエスが腰の剣をそうしているように、剣を逆手で持っての連続技を売りとしているらしい。
それだけじゃない。この剣術の凄い所は利き手とは逆の手で持った鞘をも使うところ・・・。左と右で違う作業を行うということはそうそう簡単なことでは無い。ひとつ間違えばどちらも疎かになり、剣術として成り立たなくなってしまう。
流石は剣聖といったところか・・・
しかし・・・
だからと言って弱点が無いわけでは無い。
これからそれを証明しようと言わんばかりにクロノはアリエスを見据え、そのまま、静かに抜いた剣を鞘に戻した。
決めの一撃はどちらも抜刀術に絞られる。
この時、先に動いたのはクロノだった。
クロノはアリエスに気が付かれない様に静かに剣を反転させ、彼と同じ、順手から逆手に持ち変える。
そして・・・
2人の呼吸が合った瞬間!!!
2人は同時に剣を抜いた。
お互いの体を捉えた最高の一撃の放ち合い・・・
しかし・・・アリエスの剣は、クロノの持ち替えによって体の前で受け流される!!そう・・・これこそがクロノの狙い。順手で持っていては逆手で持っているアリエスの方が剣が速く体に届き、一撃でやられてしまう。
だから策を講じた。
完全に不意を突かれたアリエスは驚きながらも剣を反転させ、クロノの脇腹めがけて打ち込むが・・・
それよりも早く、一筋の流れに様に振り抜いた剣をクロノが一閃させてアリエスを袈裟に斬りつける方が早かった。
アリエスの左肩から右肩に向けて一閃した傷から血が吹き出し、アリエスはその場に倒れこむ。
そんなイメージをして、クロノは静かにその顔に笑みを浮かべた。
だが・・・
その笑みの直後、アリエスはクロノとは逆に逆手から順手に持ち替え、それにクロノが気を取られた隙に一気に薙ぎ払う・・・。
そう・・・たとえ順手でも相手の不意をつけば明らかに逆手よりも早い。まして、その一撃を放つのが剣聖なれば尚のこと。
完全に不意を突かれたクロノも剣を抜き払いはしたが、その時には時すでに遅し・・・
たったの一瞬の判断ミスでクロノはその場に血の海を作って倒れこんだ・・・
それは誰が見ても即死と思える量で・・・。
それを見てアリエスも静かにナルシルを鞘に閉じる。
「ロビンさん。怪我は・・・」
その鮮やか過ぎる剣術に暫し目を奪われていた時、不意に掛けられた言葉にしばし戸惑ってから「だ・・・大丈夫です。」と答える。
そして、舞台はついに大将同士の戦いへと突入するのだった。
聖堂のドアを勢いよく開けてファルカスとサーラが戻ってくる。
「首尾は?」
「外のデーモンはあらかた片付けた。問題だったのは空だったが・・・そっちもセイミーとサージルさんが当たっている。殲滅も時間の問題だろ・・・。」
外の魔族達をある程度片付け、サーラ達も戻ってきた所でシルフィリアとシュピアの最後の戦いが始まる。
R.N.Cメンバーの作品に戻る